
レストランを取り仕切るのは都ホテル博多のオープン時から総料理長として支えてきた辻信太郎シェフと妻のかな江さん
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特別な人の特別な体験
長崎県壱岐市「彼わ誰(かわたれ)」
彼は誰(かわたれ)
レストランを取り仕切るのは都ホテル博多のオープン時から総料理長として支えてきた辻信太郎シェフと妻のかな江さん
長崎県壱岐市。ウニやイカなどの魚介類、壱岐牛、アスパラガスなどの野菜など、食材の宝庫としても知られ、麦焼酎発祥の地でもある。壱岐焼酎はシャンパンと同じように酒類の地理的表示の産地の指定を受けている。福岡からジェットフォイルで約1時間と便利なため、近年は移住や二拠点生活の需要も高まり、コワーキングスペースも増加中だ。そんな壱岐の芦辺港から車で5分ほどの高台に、公共施設跡をリノベーションしたフランス料理店「彼は誰」が'25年3月にオープンした。
フレンチレストランには珍しい名前は、「彼は誰時(かわたれどき)」に由来する。夕刻の暗くなり始めを指す「誰そ彼(たそがれ)」は比較的よく知られているが、これは明け方の薄暗い時間帯を指すのだそう。清石浜(くよしはま)海水浴場を見下ろす高台に位置するこの店からは、水平線を広く見渡せ、朝焼けがことのほか美しいのだとか。外壁に取り付けられた印象的なオレンジの棒状の飾りは、朝焼けの空の色を表しているのだそう。水平線と同じ高さに揃えられていて、自然と海へ視線が動き、暁の空との一体感を見てみたい好奇心をかきた立てられる。1日1組限定の宿も併設しているこの建物を全面改装したのは、オーナーである地元の一級建築士夫妻。シンプルだが海と空を借景にした窓の切り取り方、陰影のバランスも素晴らしく、クワイエット・ラグジュアリーとも言うべき上質さを体感できる。
カウンターに座った位置から海が眺められるように切り取られた窓。ほんのたまに「これは何になったの?」と速度を落として車が通りすぎてゆく
8名座れる大テーブルの個室も完備。三角に切り取られた窓から見える海の青が印象的
一枚板のカウンター越しの厨房を取り仕切るのは「都ホテル博多」開業時から総料理長を務めていた辻信太郎さん。東京の「レストランオオハラ」「ブルギニヨン」「ボンシュマン」や「カンテサンス」など、ミシュランガイドにもその名を連ねる人気店で修業を重ねてきた。「いつか福岡でビストロを開きたい」という考えの元、妻のかな江さんと福岡に移住していた辻さんは、実は実家が以前壱岐で民宿を経営、同郷の友人であるオーナーに熱量高く口説かれた結果、まったく意図していなかった故郷へ里帰りすることになったのだ。
「若い頃は何もないと思い島を出たのですが、大人になって帰ってくると、壱岐は食材をはじめいろんなことに恵まれていると気づけました」。
そう語る辻さんは今まで培ってきた経験を存分に活かし、半径10㎞以内の食材で壱岐の恵みを皿の上で表現する。メニューには「トマト」や「鰺」「壱岐牛」など食材名だけがリズミカルに踊る。その食材がどのような調理を経てどのような姿でテーブルに運ばれるかは、本来ならば実際に来てのお楽しみ…なのだが、コースのほんの一部をご紹介。アミューズからデザートまで約12品、食後のドリンクとプチフールのフルコースだ。チーズや麺、食事に添えるパンまで自家製と、下ごしらえに手間暇を要するので営業は週4日間。食材探しに余念がない辻さんは「おいしい野菜を作っている方がいらっしゃるんですよ!」と目を輝かせる。
アミューズの「トマト」。オニオンタルトの上に自家製のセミドライトマトとモッツァレラチーズをのせて。モッツァレラチーズまで自家製とは!
前菜の「鰺」。〆たアジとキュウリ、新タマネギ、トマトのシートの上にイチゴのクッキーをのせ、お客様の目の前でトマトのクリアウォーター(=透明なスープ)を注ぐ
シート状とスープにしたトマトの旨み成分と新鮮なアジの競演。目を奪われる美しさだ
「壱岐牛」。ミネラル分を多く含む牧草を食べて育った壱岐牛はやわらかく希少性の高さでフーディーの興味を集めるブランド牛をジュ・ド・ヴォライユ(=鶏出汁ソース)で
「雉羽太(キジハタ)」。アコウやアカアラとも呼ばれる高級魚をふっくらとソテーし、ブールブランソース(魚の出汁に白ワイン、白ワインビネガーやエシャロットを加えたソース)で提供。自家製パンで皿のソースまですべて味わい尽くしたい
「鮑」。ラーメン好きの辻さんが見出した鮑のおいしさを味わう最適解。鶏や鮑を殻ごと3時間蒸すなどして抽出した染み入る美味しさのスープに自家製全粒粉麺がからむ。鮑はやわらかく、九条ネギが香る
厳選したワインとともに壱岐の山海の幸を楽しみたいフーディーにとって、オーベルジュのようにそのまま宿泊できるのはこの上ない魅力だ。ベッドが2台、エクストラベッドを最大2台プラスできるゆったりした部屋は、海と空を切り取る窓がこれまた芸術的な美しさ。淡くとろけるような色合いの壁は南欧を彷彿とさせる異国感を演出する。TVは置いていないので、夜の静けさの中で星空の美しさを、朝は鳥のさえずりに深呼吸する清々しさを満喫できる。散歩や読書、瞑想など、おいしい空気の中でゆるやかな時の流れを堪能することができそうだ。「早起きしていただければ空の色の変化を楽しんでいただけますよ」と話してくれたのは、レストランでホールを担当する辻かな江さん。
「生まれも育ちも東京なので、壱岐の静けさ、鳥の声がこんなにも聞こえることに驚きました」と微笑む。次の休日はぜひ、壱岐の魅力をアップグレードする新施設で、記憶に残る特別な体験を。
晴れの日は、ドアを開けたとたん目に飛び込む青!海の色は季節によって変わるので、その時々で印象が違うのだそう
ベッドルームからのリビングの眺め。ミニマルな造りだからこそ空と海の色の変化がより際立つ
リビングからベッドルームを眺める。どこを切り取っても絵画のような美しさ
部屋の入口で靴を脱ぎスリッパに履き替える。修道院のようなミニマルな空間、静寂さに非日常感が味わえる
あえて壁を作らず、カーテンで仕切ったバスルームは、明るくて解放感がある。アメニティは〈aesop〉。香りでも癒されて
「彼は誰」を創設するにあたり、オーナーであるライトハウス設計事務所が地元の60~80代の方々に壱岐の食の記憶をインタビュー。美しい装丁の書籍にして部屋に設置する
長崎県壱岐市芦辺町芦辺浦648-2
070-9328-4466
あり カード/可
https://kawatare.jp
金〜月曜18:30スタート(7〜8月18:00スタート)
火~木曜
16,500円(税・サービス料込)
※10歳未満はご利用できません
※コースの内容は時期により変更あり
カウンター7席、個室4~8名、8~15名で貸切可
「おまかせコース/朝食プラン」
月~金曜1泊2食付 1名38,500円(税・サ込)
「素泊まりプラン」
火~木曜 1名16,500円(税込)
※10歳未満は素泊まりプランのみ利用可能
大人1名につきお子さま1名の添い寝無料
チェックイン/15:00~18:00
チェックアウト/10:00